ムラサキツバメ越冬集団の探索

 
@ ムラサキツバメは従来、南方系の蝶ですが、1990年代から東方へ生息地を伸ばしたようで、2000年代には私の地元である愛知県三河地方でも見られるようになりました。
これは温暖化と関連あると言われていますが、食樹のマテバシイが塩害や排気ガスに強いという事で各地に植えられたのも、その一因のようです。
ちなみに豊橋市ではこれまでに1400本余りのマテバシイが、公園や工業団地、街道沿いや公立校に植えられました。一般企業や住宅も合わせると、相当な数になりそうです。
 
本種は近縁種のムラサキシジミと同じく成虫で越冬しますが、晩秋から初冬にかけて多数の個体が集まり集団を形成するという面白い習性があります。(ムラサキシジミも集まる習性がありますが、ムラサキツバメほどではありません。)
この越冬集団は各地で報告されていますが、地元の東三河地方ではあまり報告が無かったので、探してみる事にしました。2009年から本格的に取り組んだのですが、1年目は七転八倒・・・。こんなものに興味を持った自分の運命を呪いながら探索を続け、発見できたのは2010年の事でした。
  
 
  左写真:日光浴するメス(2013.11 豊橋市)
 右写真:シャリンバイで吸汁する(2013.11 蒲郡市 緑地公園)

タイサンボク葉上の集団。(2010年11月 蒲郡市 緑地公園)
 

マテバシイ葉上の集団。右下に見える白いのはヒメアカタテハ。(2013年11月 豊橋市)
 
A 越冬集団の位置について

A-1. 集団の方位(集団から見た、開けた空間の向き)をまとめてみました。(左図)
・・・厳密に測定した訳ではないので、あくまでも参考ですが、東〜南向きが多いです。実際、午前中に日光が当たる場所がほとんどです。ウラギンシジミは時々、繁みの西側や北西でも見つかりますが、それとは対照的です。

A-2. 集団の造られた地点の海抜と、地表からの高さの関係をまとめてみました。(右図)
海抜の数値は、2012年から国土地理院が試験的に公開しているHPを利用しました。
地表からの高さについては、あまり精度良く測れていなかったので、これは今後の課題です。さらに付け加えると、5mを超えるような高さに集団があったとしても発見は困難なので、その点は頭に入れておく必要があります。
このグラフは反比例の形になるという仮説を立てたのですが、現時点のデータを見る限りでは、この仮説は正しかったと言えないようです。
 

 
B 越冬集団別の、個体数の推移をまとめてみました。
(今後、随時更新して行きます。)



まだ観察数が少ないので断言できないのですが、越冬集団の形成は11月上旬から中旬。消滅は12月下旬から翌年1月ごろのようです。つまり、寒さのピークを迎える前に縮小/消滅するようです。
 
  C 越冬集団が形成され消滅に至る仕組みについて定説があるのかどうか知りませんが、私なりに考えてみたのが、左の模式図です。
この仮説の前提条件は、ムラサキツバメは気温が一定以下になるとお互いに引き合う集合フェロモンを出すという事です。
模式図の赤●が各個体。緑色は葉っぱです(笑)。

・第1段階は、各個体が別々に休眠している状態。



・第2段階は、集団の形成。
昼間活動した個体が休眠場所を探す時、集合フェロモンの影響で他の個体に引き寄せられます。
なぜ集合フェロモンが出るかと言えば、集まる事で生き残る個体が増えたことがあったため、その習性が強まって行ったのだと思います。恐らくは、多くの人が指摘するように、枯葉に擬態し鳥の目を欺く効果があるのでしょう。



・第3段階は、集団の大型化。
一度別の個体に魅かれる個体が出ると、その場所の集合フェロモンの総量は増えるので、さらに他の個体を引き寄せて集団は大型化して行きます。気温が低くて動けない時に鳥の群れに見つかったら全滅しかねないと思いますが、それでも集団になる方がならないより優位のようです。



・第4段階は、集団の縮小。
集合フェロモンの作用が弱まり、各個体は分散して行きます。
なぜ弱まるのかと言えば、春が来たとき集団のままだと近親交配が起こる可能性が高いので、それを避けるためです。寒さのピークを迎える前に消滅するのは、そういう理由です。もちろん、鳥に食べられる事も個体数減少の理由の一つでしょう。





・第5段階は、集団の消滅。
活動せず残っていた個体も、やがてその場で見られなくなります。


・・・あくまでも、素人である私の仮説です。

12月上旬、19頭が集まった集団。(2013年12月 愛知県豊川市)
  
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